自転車保険とは|その特徴や必要性、選び方

自転車保険の仕組みや特徴、必要性や加入方法など詳しく解説しています。加入義務が課される地域も出てきており、自転車事故のリスクの大きさ、保険の必要性について改めて考えてみましょう。
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近年、自転車保険の加入を義務化する自治体が増えてきていますので、加入を検討されている方も多いかと思います。まだ状況判断がうまくできない小学生や、毎日通学に利用する中学生や高校生などが、自転車事故の被害者だけではなく加害者にもなり得ることを考えると、リスクの高さは自動車事故よりも高いかもしれません。

ここ最近注目度が上がってきている自転車保険ですが、どのような保険なのか、他の補償内容が似た保険との比較などと合わせて詳しく解説していきたいと思います。

自転車運転に関する環境の変化

子供から高齢者まで誰もが気軽に乗れる自転車ですが、昔と違って自転車の運転に関する環境は変化してきています。近年自転車の事故で高額な賠償金の支払いが命じられた事例が相次ぎ、誰でも乗れるからこそ、そのような事故も他人事ではありません。

自転車を取り巻く環境の変化はどのようになってきているのでしょうか。

事故の頻発、取り締まり強化

子供の自転車事故は昔から多くあったかもしれませんが、最近の事故で多いのは、若者や大人によるスマホを見ながらの運転やイヤホンで音楽を聴きながらの運転など、「ながら運転」による不注意での事故です。

また、自転車の性能も年々向上し、かなりのスピードが出るものもあります。暴走する人も多く、危険運転による事故が増え続けているため、2015年に改正道路交通法が施工され、自転車の悪質危険運転への取り締まりが強化されました。信号無視や飲酒運転、携帯電話を使用しながらの運転など、3年間で2回以上摘発されると安全講習の受講を義務付けられています。

自転車保険の加入が義務化

自転車事故の増加による被害者を救済するため、また加害者に高額な賠償金の支払いが発生した際にその経済的負担を軽減することを目的に、自転車保険の加入を義務付ける自治体が増えてきました。

そのきっかけとなったのは、2008年に神戸市で起きた自転車事故です。小学5年生の男子児童が自転車で60代の女性にぶつかり、被害者は意識不明の重体に。その後の裁判で男子児童の保護者に約9,500万円もの賠償金を支払うよう、判決がくだされました。その事例をきっかけに、2015年に兵庫県が全国で初めて自転車保険の加入を義務化しました。

このようなケースは、被害者はもちろんのこと、加害者となってしまった人にとっても人生を狂わす非常に痛ましい事故です。保険の加入を義務化することで、万一の場合にしっかりと補償を受けることができる、また補償することができるということ、そして「自転車もひとつ間違えば凶器になり得る」という自覚を持って欲しいとの願いも込められているのではないでしょうか。

義務化された都道府県

2015年に兵庫県が自転車保険加入を義務化し、その後大阪府、滋賀県と続きました。

2018年現在、義務化されている地域、努力義務とされている地域は以下です。

【義務化されている地域】

兵庫県、大阪府、滋賀県、宮城県仙台市、埼玉県、愛知県名古屋市、石川県金沢市、京都府、鹿児島県、神奈川県相模原市

【努力義務とされている地域】

東京都、徳島県、香川県、福岡県、熊本県 など

現在「努力義務」の地域も、「努力義務」から「義務」へ移行していく可能性も高く、今後全国的に広がっていくと思われます。

加入しないとどうなるのか

義務化ということは、違反すれば罰則があるのかと気になる方もおられるでしょうが、現在のところ義務化されている地域で自転車保険に加入していないからといって、なにか罰則があるわけではありません。また、義務化の対象についてはその地域に住んでいるかどうかではなく、その地域で自転車を利用する人全てが対象になります。

しかし加入しなくても罰則がないから、義務化された地域に住んでいないから加入しなくてよいというものではありません。自転車保険は月額数百円と保険料が安いものがほとんどで、安い価格で大きな補償を得られるものです。

万が一事故が起こった場合に、何千万円もの賠償金が発生したらどうなるか、他人事ではなく誰にでも起こりうることとして備えておくことは大切です。

自転車事故の事例

自転車での事故と聞くと、自動車の事故のような大きな事故は想像しにくいかもしれませんが、非常に高額な賠償金が発生した事例や、被害者が死亡してしまった事例も多くあります。ではどのような場合に保険が適用されるのか、また適用されないのかを具体的に見ていきたいと思います。

保険が適用される事故事例

  • 子供が自転車を運転中、他人の駐車場に停まっていた車にぶつかり傷つけてしまった
  • 自転車で走行中に歩行者を避けきれずぶつかってケガをさせてしまった
  • 雨の日に自転車で転倒して骨折した
  • 子供乗せ電動アシスト自転車が倒れ、子供が下敷きになりケガをした

保険が適用されない事故事例

  • スマホを見ながら運転していたら歩行者にぶつかりケガをさせてしまった
  • 友人から借りた自転車で事故を起こしてしまった
  • 自転車レース中に接触してケガをした
  • 仕事中に自転車に乗っていたら転倒してケガをした

ながら運転や信号無視での事故など、加害者側に重大な過失がある場合は補償の対象外になります。また、競技中の事故、業務中の事故も対象外となっています。

※「重大な過失」に関しては保険会社によって見解に違いがあります

実際に起きた高額賠償事例

  • 男子高校生が車道を斜めに横断し、正面から自転車で直進してきた男性と衝突。相手の男性は脳に後遺症が残り、言語機能を喪失。裁判で被害者に対し9,000万円の賠償金を支払うよう判決が出た
  • ペットボトルを片手に持ったまま下り坂を走行していた男性が、横断歩道を渡っている女性に衝突。女性は脳挫傷で数日後に死亡。賠償金約6,700万円の判決が出た

備えは大切ですが、保険も万能ではありません。重大な過失があれば保険金もおりませんので、交通ルールや交通マナーの順守、安全運転を心がけることが何よりも重要です。

自転車保険の補償内容・補償の範囲

それでは次に、自転車保険の補償内容と補償の範囲について見ていきましょう。どの保険会社も補償内容はほとんど変わりませんが、補償の範囲はそれぞれ規定が違いますので、選ぶ際はご自身に必要な部分が含まれているかしっかりチェックしてください。

自分のケガに対する補償

自転車保険の2大柱は自身のケガに対する傷害補償と、他人への賠償責任補償です。

傷害補償は主に死亡・後遺障害・入院・通院補償など通常の傷害保険と同じ補償内容になっています。

自身のケガによる入院や通院は、健康保険により負担額が3割になる方がほとんどですし、もし高額な治療費がかかったとしても、高額療養費制度で負担は抑えられます。そのため、あまり高額な補償をつける必要性はないと言えますし、別途医療保険や傷害保険に加入している方にとっては補償がダブることになります。

他人への賠償責任に対する補償

自転車保険で高額補償が必要なのは、他人にケガをさせてしまった、他人の物を壊してしまった場合に治療費や修理費用などを補償する賠償責任補償です。

これまで実際にあった事故の事例でも、被害者が長く意識不明の重体になってしまったり、脳に障害が残ってしまったりした場合には数千万円という非常に高額な賠償金が発生しており、保険に加入していなければとても払えないような金額です。

賠償金が払えず自己破産する例もありますので、補償金額は1億円以上はかけておきたいところです。自動車保険と違って無制限に補償してくれる保険は少ないようですが、限度額が3億円や5億円のものもあります。

示談交渉サービス・ロードサービスも

自動車保険と同じく、示談交渉サービスやロードサービスがついているものもあります。

ロードサービスは自転車事故の際だけでなく、タイヤのパンクやチェーンがはずれて走行できなくなった時などにも利用できるため、ついていると便利です。

家族全員補償されるものが多い

自転車保険は対象を本人のみと家族全員とで選ぶことができます。家族型は補償する人数が多い分保険料は高くなりますが、一人当たりの保険料は割安になります。人数制限のない家族型であれば幼児だった子供が成長して自転車に乗るようになっても、特に手続きなく補償の範囲になりますので、その都度ひとりひとり加入するよりも手間もなく、お得にかけることができます。

自転車事故に限らず補償されるものが多い

自転車保険という名称であっても、実は自転車事故の場合だけに限定している保険はほとんどありません。だいたいの保険は交通事故全般を対象としており、保険によっては自転車事故の場合は保険金が2倍支払われる、というような補償がついているものもあります。

また、賠償責任補償については自転車事故だけでなく、日常生活における賠償責任の発生時にも補償されます。

医療保険や自転車特約との比較

自転車事故においてもっとも必要な補償は賠償責任補償です。賠償責任補償さえあれば、自転車保険への加入は不要とも言えます。特に医療保険や火災保険などに加入されている方であれば、自転車保険の補償をほとんどすでに持っている場合もあります。

ここでは、自転車保険の補償内容をカバーできる可能性のある他の保険について、比較しながら見ていきたいと思います。

傷害保険・医療保険との比較

自転車保険のケガの補償では、交通事故の場合のケガだけが対象であることがほとんどです。通常の傷害保険であれば日常生活の中でのケガが補償の対象になりますので、自転車保険より補償の範囲が広くなります。

また、傷害保険はケガのみが対象ですが、医療保険はケガだけでなく病気での通院や入院なども対象になるためさらに補償範囲が広くなっています。

自動車保険の自転車特約との比較

自動車保険の中にも、「自転車特約」を付帯できるものがあります。こちらも自転車に乗っている際に事故を起こした場合に、自動車での事故と同様補償してもらえるという特約です。ただし、傷害補償のみや賠償責任補償のみなどプランによっては一部しか補償されない場合があります。しかし傷害補償のみであっても、個人賠償責任保険を別途特約で付帯できるものが多いので、特約を両方つけることで自転車保険の内容は全てカバーできることになります。

個人賠償責任保険との比較

個人賠償責任保険に加入している方も、自転車保険は不要です。

個人賠償責任保険は本人だけでなく家族(配偶者、同居の親族、別居の未婚の子など)も対象になっており、日常生活でのあらゆる賠償責任リスクに対応していますので、自転車での事故ももちろん対象になります。しかし現在個人賠償責任保険単独で販売しているところは少なくなっています。

火災保険や自動車保険、傷害保険などに特約としてつけることができるので、それらに追加で加入すれば自転車事故のリスクにも備えることができます。

賠償責任補償については自転車保険でも、他の保険の特約でも補償の範囲はほとんど変わりませんが、保険料の安い自転車保険の場合は保険金額が1,000万円までのものもあります。賠償責任補償に関しては1,000万円を優に超える賠償金支払いの実例が多くあるため、最低でも1億円以上はあるものが望ましいです。

安全自転車TSマークの補償との比較

自転車によく貼られている「TSマーク」にも補償がついていますが、その他の自転車保険とは少し内容が違います。

「TSマーク」は自転車安全整備店で自転車安全整備士が点検・整備した安全な自転車に貼られるシールです。このシールのついた自転車には傷害補償と賠償責任補償がついてきますが、これは自転車の所有者ではなく、自転車そのものにつく補償です。そのため、所有者でなくても友人や家族が乗っている際の事故でも補償されます。

ただし、賠償責任補償の内容が「死亡もしくは重度後遺障害1~7級になった場合」に限り、それ以外のケガによる通院や慰謝料などは補償されません(限度額は青色マーク1,000万円、赤色マーク1億円まで)。入院も15日以上の場合のみ見舞金として一律10万円支払われます(赤色のみ)。

また本人の傷害補償に関しても、「死亡もしくは重度後遺障害1~4級になった場合」に限り補償され(青色30万円、赤色100万円)、入院は15日以上の場合のみ一律10万円(青色は1万円)が支払われるというものですので、補償としては心もとない内容です。

補償期間は1年のため、継続するためには再度点検・整備を受ける必要があり、忘れてしまえば補償も終了します。

壊れない限り自転車店にこまめに点検に行く方は少ないと思われますし、補償の少なさからも、こちらの補償だけでなく別途しっかりと補償できる保険を準備しておくことをおススメします。

メーカーの無料補償との比較

有名メーカーでは自転車の種類によって最大1年間、傷害補償や賠償責任補償を受けることができます。保険料は無料で加入できるので購入時に加入しておいて損はないですが、期限が切れると補償はなくなりますので、引き続き補償が欲しい方は期限までに他の保険に切り替えることを忘れないようにしましょう。

盗難や修理の補償は自転車盗難保険を

2017年の自転車盗難件数は約4万件と発表されており、自転車の盗難は非常に多いのですが、残念ながら自転車保険には盗難補償はついていません。

ロードバイクや電動アシスト自転車など高額な自転車は特に盗難にあいやすいので、盗難補償が欲しい方は自転車盗難保険を検討してはいかがでしょうか。自転車盗難保険では破損した自転車の修理費用を一部負担してくれるものもあります。

また、自宅の駐輪場に停めている自転車が盗まれた、という時は、火災保険に付帯している盗難補償の対象にもなります。一戸建ての駐輪場やマンションの駐輪場も自宅の敷地内の一部とみなされるのですが、保険によっては屋根がある場所でないと対象外などの制限がある場合も。また、火災保険はあくまで自宅の補償ですから、外出先で盗難にあった場合は対象外になります。

メーカー補償でも最大3年間の盗難補償がつけられるメーカーがあります。加入は無料ですので、購入時にはそちらも加入しておくとよいでしょう。

自転車保険検討時の注意点

次に、自転車保険の加入を検討する際に注意していただきたい点を説明していきたいと思います。

保険加入の原則は、「無駄なく、必要な分だけ加入する」ことです。加入しているのにいざという時に保険金が支払われない、無駄な保険料を払い続けている、ということがないように注意していただきたいことをまとめています。

年齢制限があるものも

近年の高額賠償の事例では、高齢者の被害者が多くみられます。健康寿命が長くなり、自転車を運転される高齢者も増えていますが、事故にあってしまった際に重症になりやすく、また加齢によるとっさの行動の遅れなどからリスクが高いと言えます。そのため保険会社によっては70歳未満は加入できないなど、年齢制限をかけている場合があります。

反対に71歳以上を対象とした自転車保険を販売しているところもありますので、加入の際は年齢が対象になっているかを確認しましょう。

補償が重複していないか

前項でも記載しましたが、自転車保険の主な補償は傷害補償と賠償責任補償で成り立っているため、他の保険でも対応できる場合が多くあります。

自転車保険に加入する前に、現在加入している火災保険や医療保険、自動車保険などの補償内容を確認して、補償が重複していないかしっかりチェックしましょう。

例えば現在医療保険と火災保険に加入している場合、

  • 傷害補償:医療保険で対応可能
  • 賠償責任補償:火災保険の特約の賠償責任補償を追加で契約する

このように加入中の保険に少しプラスするだけでほぼカバーすることが可能になります。

火災保険や自動車保険など特約の多い保険は、色々とつけていても内容を忘れてしまっている方が多いので、一度それぞれの特約についても確認してみてください。

補償の範囲を要チェック

同居する家族がいる方は補償される範囲にも注意してください。

例えば夫・妻・小学生と幼児の子供・80歳の夫の母が同居している家族の場合

  • 家族型の人数は何人でも補償されるタイプを選ぶ
  • 年齢制限のないタイプの保険を選ぶ、もしくは71歳以上対象の自転車保険をプラスする

など、家族の人数や状況によって選べる保険が変わってきます。

ロードサービスに関しても、自宅から1キロ以上離れている場合、また自宅から50キロまで、など利用できる範囲が決まっている場合があります。24時間対応可能かそうでないかなどの違いもありますので、サイクリングでよく遠出する方などは確認しておいた方がよい部分ですね。

近年利用者が増えている電動アシスト自転車は自転車保険の対象になりますが、電気だけで走行するフルアシストタイプの自転車は原動機付自転車に属するため、対象の範囲に含まれません。

自転車保険はどこで加入できるか

では自転車保険に入るなら、どこで加入できるのかを見ていきましょう。

保険代理店で加入

保険代理店で加入することができます。他の保険と同じ代理店でまとめておきたいという方におススメです。他の保険との補償の重複部分などについても相談しながら検討できるのがメリットです。

自転車販売店で加入

新しい自転車を購入した際に同時に保険の加入を勧められることも多いでしょう。自転車販売店で独自の自転車保険を用意しているところもあります。

スマホ・インターネットで加入

手軽に加入したい方にはスマートフォンやインターネットから加入できる保険もあります。支払いはクレジットカードや携帯電話料金とまとめて引き落とすことができます。

手軽さがメリットではありますが、補償の内容などご自身できちんと理解、判断する必要があります。

コンビニで加入

コンビニのマルチコピー機で加入できる保険もあります。入力事項が多く時間がかかることが気になる方は、事前にネット登録することで時間短縮することも可能です。

まとめ

自転車保険の加入義務化は今後さらに広がっていくことと思われます。

現在義務化されていない地域であっても、今回掲載した事例のような事故は全国で起きており、無保険で運転することは非常にリスクが高いということをご理解いただけたのではないでしょうか。

また、新たに加入せずともすでに補償を持っている方も多いですから、これを機に加入中の保険をよくご確認いただき、そして自転車の運転も車と同様に安全運転第一であることを再度認識していただければと思います。

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