相続税の基礎控除の引き下げにより、相続対策による生命保険の活用を検討する方は以前より増えています。また、同時に資産運用もできる商品のニーズも増えており、円建ての終身保険では資産運用を期待することが難しくなっています。
そこで最近では、日本より高い金利である外貨建て保険に注力する保険会社が増えてきています。外貨での運用なので為替リスクはありますが、死亡保険金は外貨建てで保証されており、米ドルなどは日本より金利も高く、円建てよりも条件は有利です。
この記事では、外貨建て終身保険を活用した相続対策について解説していきます。
1. 生命保険各社が外貨建て商品に注力する理由
生命保険各社が外貨建て商品に注力する理由について説明します。
1-1.日本は長らく続く超低金利
バブル崩壊以降、日本は長らく金利の低下傾向が続いており、日本銀行によるマイナス金利政策の影響もあって利回りがマイナスになってしまいました。
投資対象であった国債がこのような状況では大きな収益を見込めず、生命保険会社はどこも資産運用に苦戦しており、円建ての終身保険や養老保険、個人年金保険、といった貯蓄性のある商品の販売を控えるようになりました。
1-2.標準利率の改定
長らく続く超低金利に加え、2017年4月に標準利率の改定もありました。
標準利率とは、生命保険会社が責任準備金を計算するための利率のことで、この利率は金融庁が決めています。生命保険会社はこの標準利率を参考にして保険商品の予定利率を決定しています。
このため、多くの生命保険会社で貯蓄性のある保険商品の料率が改定され、保険料がアップしてまいました。この標準利率の改定も、生命保険会社各社が外貨建て保険に注力するようになった大きな要因の一つといえます。
2.外貨建て終身保険
外貨建て終身保険について説明します。
2-1.外貨建て終身保険の特徴
外貨建ての保険商品の特徴は、高い予定利率にあります。予定利率とは、保険会社が契約時に設定する保険金の運用利回りのことで、この利率が高くなると保険料は安くなります。
例えば、日本の円建てによる一時払い終身保険の場合だと、予定利率はおよそ0.2%前後ですが、昨今人気が出ているドル建ての一時払い終身保険は2%以上の高い予定利率となっています。
そのため、最終的に同じ額の保険金を受け取ると仮定した場合、ドル建ての方が保険料は安くなるので、納税資金対策としては非常に効率が良くなるというわけです。
2-2.外貨建て一時払い終身保険のメリット
外貨建て一時払い終身保険の以下の5つのメリットについて説明します。
- 予定利率が高い
- 為替リスクを回避できる
- 為替差益が期待できる
- 相続対策に有効
- 節税効果がある
2-2-1.予定利率が高い
外貨建て一時払い終身保険は、円建ての保険に比べて利率が高く、長期にわたる運用では金利の差は大きいので圧倒的に外貨建ての保険が有利といえます。
2-2-2. 外貨の分散投資ができる
通貨分散投資の1つとして、保険としての保障を得ながら外貨の資産を持つこともできます。死亡保険金や解約返戻金を外貨のまま保有すれば、外貨資産として活用することもできます。
2-2-3. 為替差益が期待できる
運用は外貨で行うが保険料や保険金等の入出金は円で行うという商品の場合、保険金や解約返戻金の受取時に契約時より円安になっていた場合、利益が得られます。
例えば、1ドル100円の時に1万ドルの終身保険に加入すると、一括で100万円を支払うことになります。その後、1ドル150円になり保険金として1万ドル支払われると、日本円では150万円受け取ることができます。つまり、プラス50万円の為替差益が受け取れたことになります。
2-2-4. 相続対策に有効
外貨建ての保険商品に限らず生命保険の死亡保険金には、500万円×法定相続人数までの非課税枠があるので、現金で持っているより相続税評価額を下げることができます。
また、相続税は原則として現金で納付しなければならず、相続財産は遺産分割協議が終わるまで凍結されてしまいます。それに対し、生命保険の死亡保険金は受取人が指定されているため、約1週間程度で現金を受け取ることができます。
2-2-5. 節税効果がある
外貨建て一時払い終身保険を途中解約した場合、解約返戻金が払込保険料を上回った差額は、所得税法上「一時所得」になります。
一時所得には50万円の特別控除があるので、差額が50万円以内であれば課税はされません。
2-3. 外貨建て一時払い終身保険のデメリット
外貨建て一時払い終身保険のデメリットについて説明します。
2-3-1.為替リスクがある
外貨建て保険の最大のデメリットは、保険料や保険金を円に換える時に、その時の為替相場により変動して目減りしてしまう可能性があることです。
外貨建て保険を敬遠する人のほとんどは、この点を嫌っています。確かに円ドル相場を見ても動きは大きく、短期間に一方向に急激に動くことも珍しくありません。
しかし、先のメリットのところでも記述したように、通貨の分散投資と考えれば為替リスクは回避する事が出来ます。
2-3-2.手数料がかかる
外貨を円に換えたり、円を外貨に換える時に手数料がかかってしまいます。
例えば、米ドル建ての保険料を円に換算して払い込む場合の為替レートと、保険金や解約返戻金を円で受け取る場合の為替レートは異なります。
3.外貨建て一時払い終身保険は相続対策になるのか
今の円建て運用の一時払い終身保険では、保険料と保険金がほぼ一緒にものしかありませんが、最近の外貨建て一時払い終身保険は、保険料の2~3倍以上の保険金がつくものも販売されています。
その場合、仮に円高になったとしても保険金は目減りすることはありません。また、支払った保険料に対して倍以上の保険金になるので、相続税を支払ったとしても元々の資産を減らすことなく遺族に残せる可能性もあります。
預けた保険料をドルで運用し資産を形成しますので、円建て保険のように確実に決まった保険金を受け取らないと困るというような意図ではなく、投資の1つとして加入するのが良いでしょう。
4.まとめ
外貨建て終身保険を活用した相続対策について解説してきました。
外貨建て保険にはメリットもデメリットもあり、全ての人に向いているわけではありませんが、商品としてはそこまで難しくありません。
もし、相続対策に外貨建て終身保険の活用を検討する場合は、為替リスクを中心とした自分のリスク許容度を客観的に判断する必要がありますが、保険金の受け取り方を工夫することで、為替リスクと上手に付き合うことも可能です。
円建ての保険よりもレバレッジ効果は高いですので、相続対策のひとつの選択肢として考えてもよいでしょう。この記事を参考に是非一度じっくり検討してみてください。