生命保険の中でも入院や手術のための費用を保障する医療保険は比較的、生活の中で身近に感じやすい人も多いのではないでしょうか。しかし、支出のアドバイザーでもあるファイナンシャルプランナーの中には、医療保険は必ずしも必要ないという人もいます。今回は公的な医療保障の内容も踏まえたうえで、様々なケースや年代ごとの医療費の必要性を解説していきます。
そもそも医療保険とは
医療保険は不慮の病気やケガによる治療費の負担に備えるもの
そもそも医療保険とはどういった保険なのでしょうか。医療保険は、不慮の病気や事故などで、入院や手術を受けた場合などに発生する治療費を補てんするための保険です。
多くの商品は入院給付金や手術給付金などで構成されており、入院1日につきいくら、手術1回につきいくらという給付内容となっています。
その他にも、先進医療や放射線治療を受けた場合や、特定の疾病の診断を受けた際に給付金が支払われるといったものもあります。
医療保険に加入すると損をするのか
医療保険の保険料は、純保険料と付加保険料の2つで構成されています。純保険料とは、どれくらいの支払金額が発生するかといった危険率に基づいて計算されたものです。一方で、付加保険料は人件費や広告費など、保険会社の経費から計算されています。
純保険料の場合、実際の保険金や給付金総額が想定したそれより少なかった場合、その差が保険会社の利益となります。付加保険料の場合は実際の経費が想定したそれより少なかった場合、同じく保険会社の利益となります。
このように細かく分解すると、契約者が支払う保険料には、本来保険として使われるべき部分に加え、保険会社の経費、更には保険会社の利益から構成されていることがわかります。経費の部分は仕方ないとしても、契約者全体が支払う保険料総額は、契約者全体が受け取る保険金・給付金より必ず大きくなることになり、つまり損をする計算となります。
では、医療保険に入らず、その分貯金をしておけばいいのでしょうか。勿論そういう考えもあるでしょうが、貯金が貯まるのには時間がかかります。貯まり切っていないうちに大きな病気、お金がかかる病気にならない保証はありません。また貯金というものは、一般的には老後の生活費のためという性格も帯びています。生きるために貯金を取り崩して病気を治したのに、その後の生活費がなくなってしまうのでは本末転倒です。このような理由から、健康で収入があるうちに、貯金とは別に医療保険に入っておく意味があると言え、多くの人が医療保険に加入しているのです。
医療保険を必要と考える人はどれくらいいるのか
生命保険文化センターが発表する「平成27年度生命保険に関する全国実態調査」によると、かんぽ生命を除く民間の保険に加入している世帯の91.7%が医療保険や医療特約に加入しています。
また、平成22年以降に民間保険に加入した世帯の58.5%は、加入の目的として、「医療費や入院費のため」と回答しています。これは加入目的の回答として最も多い結果となっています。
さらに、どのような事態に備えて保障を準備しているかという問いに対しても、第1位が「世帯主の病気やケガの治療や入院した場合の医療費の準備」となっています。第2位は「世帯主が万一の場合の資金準備」となっているものの、第3位には「配偶者の病気やケガの治療や入院した場合の医療費の準備」が入っています。このように、多くの人が医療費に対して不安を抱え、準備をしていると言えるでしょう。
公的な医療保険だけでは不十分なのか
公的医療保険で負担を軽減することは可能
民間の医療保険の加入を検討する際に、中には公的保障で十分なのではないかと考える人もいるかもしれません。公的医療保険では、給付内容やその額は種類により違いがあるものの、次の2点は共通しています。
- 医療機関で治療を受けた、また入院した場合の費用が一部支給される
- 1ヶ月あたりにかかる医療費が自己負担額の限度額を超えた場合に、限度額以上の医療費が支給される(高額療養費制度)
さらに被用者保険(主として会社の従業員などが加入する、国民健康保険とは別の健康保険)に加入していれば、療養のために会社を休み、給料がもらえない場合に収入の一部が負担される傷病手当金も公的保障の1つです。傷病手当金は、標準報酬日額の3分の2に相当する額が支給されるため、収入の減少に備えることができます。
高額療養費制度で高額出費もカバーできる
高額療養費制度とは、1ヶ月の間に支払った医療費が限度額を超えた場合に、超えた額が支給される制度です。高額療養費制度の限度額は所得により差があります。
例えば年収が約370万円~約770万円の一般的な世帯を想定しましょう。月の医療費総額が50万円かかったとします。このとき、高額療養費制度を使えば、実質の負担額は82,430円となります。さらに医療費が100万円の場合であっても、実質負担額は87,430円と、医療費が高額になったとしても、最大でも月に約9万円が目安となるでしょう。
事前に高額療養費限度額適用認定証の申請をしておけば、窓口で限度額以上のお金を支払う必要もありません。またこの例よりも年収が低ければ負担額も減る仕組みとなっています。逆に、これよりも高い年収の人は負担が大きくなるため、注意が必要です。
しかし、これに該当するであろう大企業の多くは健保組合が別途あったり、公務員であれば共済組合に加入していたりします。これらは福利厚生の一環として、高額の医療費が発生した場合には公的保障とは別に給付金を受け取ることができるものもあります。そのため福利厚生がしっかりしていれば、年収が高くても医療費の負担額を減らすことができるのです。
公的保障ではまかなえない費用
入院1日当たりの自己負担は平均約2万円
しかし、上記のような公的保障ではまかなえきれない費用もあります。生命保険文化センターが平成28年に行った「生活保障に関する調査」によると、入院時の自己負担費用は、1日平均23,901円となっています。これは治療費だけでなく、食事代や差額ベッド代なども含んだ合計金額だからです。
食事や差額ベッド代は高額療養費制度の対象外
高額療養費制度といった公的医療保険は、あくまで治療に関わるものが対象となります。そのため、入院時の食事代や差額ベッド代は対象外となり、自己負担となってしまいます。
入院時の食費は一般の人であれば、1食あたり約460円とされています。また差額ベッド代は、平成24年のデータによると、1人部屋で約7,500円、2人部屋で約3,000円、3人部屋であれば約2,700円とされています。
差額ベッド代は必ずしも個室だけに掛かるものではありません。1部屋に4ベッド以内で、個人用の収納などがあり、カーテン等で仕切りがされていれば、差額ベッド代が発生することもあるのです。
ただし、同意書による同意をしなければ差額ベッド代は発生しないという決まりがあるため、自身で部屋を選択して、費用がかからないようにすることは可能と言えます。しかし、お金の心配をせずに、プライバシーの守られた環境で入院生活を送りたいという場合は、差額ベッド代の確保を目的として医療保険に加入しておいた方が安心と言えるかもしれません。
想定外の支出にも注意が必要
食事代や差額ベッド代の他にも、家族の見舞いの交通費やお見舞いに来た人へのお返し、入院時の衣服など身の回りのものの購入費なども必要な費用に入ってきます。
短期入院であれば、負担はそれほど重くはないかもしれませんが、入院が長期になればさらに負担が大きくなることも考えられるでしょう。そのため、高額療養費制度があるからと言って必ずしも医療保険が不要とは言えないということになります。
長期入院に備えて医療保険に加入する際は注意が必要
精神疾患や認知症などは入院が長期に及ぶ傾向が
それほど大きな病気ではなく、入院も短期間の場合は、高額療養費制度もあるため、預貯金が一定程度あればカバーできると考えることもできるでしょう。そのため長期入院に備えて医療保険に加入することを考える人もいるかもしれません。
長期入院となる傾向が強い疾病としては、統合失調症などの精神疾患や血管性及び詳細不明の認知症、アルツハイマー病などが挙げられます。このような病気にかかると、入院が1年以上続いたり、入退院を繰り返したりして、経済的に大きなダメージを受ける可能性が考えられます。
民間の医療保険は長期入院に対応していないこともある
しかし、民間の保険で保障される範囲は1入院あたり30日~180日で、長期入院に対応していないものが一般的です。また保険期間を通算しての限度日数も700日~1095日と、ほとんどの保険は最長で3年となっています。そのため、入退院を繰り返し、治療が長期にわたる場合のリスクに医療保険だけで完全に備えることは難しいと言えるでしょう。
長期にわたる収入減少のリスクには障害年金もある
治療が長期にわたる場合は、働けないことによる収入減少のリスクも考えなければいけません。公的な保障として、会社員であれば、傷病手当金を受け取ることも可能です。
支給される傷病手当金の額は標準報酬月額の3分の2であり、手取り額の約7割を毎月受け取ることができます。しかし自営業や会社の健康保険に加入していない人は、この制度は適用されないため、収入減少のリスクがあると言えるでしょう。
また傷病手当金の支給期間は最長で1年6ヶ月のため、長期にわたる治療には対応できていません。しかし、これとは別に障害年金を受け取ることができる可能性もあります。
国民年金加入者は障害等級1級と2級に認定されると、障害基礎年金を受け取ることができます。障害基礎年金の金額(平成30年度)は、1級が年974,125円、2級は年779,300円です。さらに子供がいる場合は、第1子と第2子は1人につきそれぞれ224,300円、第3子以降は74,800円が加算されます。
会社員などの厚生年金加入者は、障害基礎年金に加え、障害厚生年金を受け取ることができ、より手厚い保障を受けることができます。障害厚生年金の金額は、厚生年金に加入している期間の平均給与と加入年数に基づいて計算されます。
医療保険があれば治療の選択肢が広がることも
先進医療にかかる費用は全額自己負担
費用面だけでなく、治療方法の選択においても医療保険の必要性はあると言えます。先進医療とは、厚生労働大臣が認めた、高度な医療技術のことです。先進医療は保険診療と併用して受けることができますが、先進医療のための費用は全額自己負担です。
先進医療のための費用は高額になることも多く、たとえばがん治療にも使われる重粒子線治療は、1件当たり300万円を超えるとされています。
これに備えて、民間の医療保険には、先進医療を受けた場合に給付金が受け取れる特約を付けられるものも多くあります。保険料は月100円程度で付加することが可能です。いざというときに経済的な理由で治療を諦めるということがないように、先進医療特約を付加できる民間の医療保険を検討することもできるでしょう。
医療保険は自由診療に対応したものも
自由診療とは、医療法及び医師法の規定の中で、個別に患者と医療機関が契約をして行う診療のことです。自由診療では、厚生労働省による承認を得ていない治療方法も選択可能です。
厚生労働省の承認を得ていない治療方法や薬の中には、海外では承認されていて実績があるものもあります。しかし、自由診療は公的医療保険の対象外となるため、経済的な負担が大きく治療を諦めなければいけないということも考えられます。
民間の医療保険の中には、この自由診療による入院や手術、治療費の保障を受けられるものもあるため、加入をしていれば治療の選択肢を広げることも可能となります。
医療保険の検討の必要性が低い場合
十分な預貯金がある場合
これまで見てきたように、医療費の負担については、公的保障だけで十分とは言えないものの、ある程度負担を軽減することができます。そのため、入院した場合の自己負担額や公的保障では足りない保障を補うだけの経済的な余力がある場合は、医療保険の必要性は低いと言えるでしょう。ある程度の預貯金がある人は、いわゆる掛け捨ての医療保険の保険料を払うことももったいないと思う人もいるかもしれません。
勤務先の福利厚生が手厚く、支出の増加をカバーできる場合
勤務先の福利厚生によっては、医療費が高額になった場合に給付金を受け取れるという会社もあります。こういった場合は一般よりも手厚く保障を受けることができるため、民間の医療保険に加入する必要性は低くなるでしょう。
医療保険の検討が必要な場合とは
預貯金がない、預貯金を崩したくない場合
一方で、差額ベッド代など医療費以外の負担が大きくなることも考えられます。そのため、預貯金がそれほどない場合は短期間の入院であったとしても、費用に困ることがあるでしょう。
また預貯金は他の目的で行っていて、それを医療費に充てたくないと考えている人もいるでしょう。この場合も医療費のための貯金と思って医療保険の加入を検討しても良いかもしれません。
健康状態や万一の事態に不安がある場合
自身の健康状態に不安がある人は一度医療保険への加入を検討してみても良いでしょう。実際に病気になってしまってからでは保険に入れないということもあるため、加入時期には注意が必要です。
また周りに入院や手術をした人がいると、不安を抱えることもあるでしょう。保険に加入することで、このような不安を解消し、経済的な安心を得ることもできるかもしれません。
もしもの際に支援体制が不十分な場合
自身の預貯金が十分でない場合に、医療費のために大きなお金が必要になった際には、親や身内などの支援や勤務先の福利厚生が助けになることもあります。もしも急なお金が必要になったときに頼れる人がいない、医療費の増加をカバーできる福利厚生がないという場合は、民間の医療保険に加入しておくと安心でしょう。
働けない場合の収入減少が心配な場合
公的な保障として傷病手当金や障害年金はあるものの、必ずしも給与と同じだけのお金を受け取れるわけではないため、収入が減少してしまう可能性が高いです。また会社員でなければ、傷病手当金もなく、障害年金も会社員に比べると少なくなってしまいます。短期間であれば預貯金で対応できるという人も、収入減少のリスクが不安な場合は医療保険への加入を検討してみても良いでしょう。
先進医療や自由診療など治療の幅を広げたい場合
先進医療や自由診療は公的医療保険の対象外のため、自費でまかなおうとすると、多額のお金が必要となります。先進医療特約を付加した医療保険に加入しておけば、先進医療を受けた際に保険金を受け取ることが可能です。
また自由診療による入院や手術が対象となる医療保険もあります。もしもの場合に治療の選択肢を広げておきたいという場合には、内容を吟味して医療保険に加入することも大切でしょう。
年代で比較する医療保険の必要性
20代~30代前半
医療保険の必要性は年代やライフステージによっても違いがあると言えます。若く比較的体力もある20代~30代前半の人は、保険の必要性を感じない人も多いかもしれません。しかし、いつ事故に巻き込まれるかわかりません。また若いうちからかかりやすい病気もあるため、リスクが全くないとは言えないでしょう。
さらに何かあった場合に十分な貯蓄がまだできていない可能性が高いのもこの年代の特徴として挙げられます。若いうちに加入すれば、一般的に保険料は安く抑えることができるため、もしもの時のお守りのような感覚で、加入を検討しても良いかもしれません。
また就職や結婚、出産といったライフイベントも多い年代でしょう。自分のことは自分で対処するために、または家族の生活を守るために、といった目的を持って保険加入を考えることもできるはずです。
この年代であれば医療保険の中でも、終身保険も検討の対象に入れることもできます。終身保険は定期タイプのものと比べると保険料は高くなりがちなものの、若いうちに加入すれば比較的安い保険料で保障を一生涯持つことができるためです。
ただし、保険期間中に保障内容が古くなってしまい、実際に使いたいときには、医療の実情に合っておらず使い物にならないといったことも考えられます。またインフレのリスクも否定できません。終身保険を検討する場合は、こういったリスクも考えたうえで選ぶようにしましょう。
30代後半~40代
この年代では子供の教育資金や住宅資金といった費用の負担が大きくなる年代とも言えるでしょう。そのため貯蓄が難しくなっていたり、場合によっては貯蓄を取り崩したりといった必要があるかもしれません。
一方で、生活習慣病やがんなどの重い病気のリスクが上昇してくる頃でもあると言えます。もしもの場合にさらに貯蓄を切り崩すことのないように、保険で貯蓄を守ることを検討する必要があるでしょう。
また若いころから医療保険に加入していたとしても、気になる病気の保障を手厚くしたり、新たな保険に加入したりするなど、内容の変更や追加を検討することも必要かもしれません。
50代以降
50代以降は子供も独立し、住宅ローンの完済も見えてくる年代でもあるでしょう。子供がいない世帯や単身であれば、貯蓄も増え、ゆとりのある生活を送れる年代かもしれません。
ただ、年齢とともに心疾患や脳血管障害などの病気のリスクは高まります。長期にわたる入院などがあって老後のための生活資金を取り崩すことのないように、貯蓄額と相談しながら、医療保険の内容を検討するようにしましょう。
まとめ
医療保険の必要性は、自身の収入や貯蓄、もしもの場合の周りの支援状況など、様々な要因によって異なるものの、総じていえば公的な保障だけで全ての治療方法を網羅し、全ての費用を賄うことはできないため、自分に合った医療保険を検討することは必要でしょう。
結婚や子供の誕生などライフイベントによっても医療保険への考え方は変化するはずですので、自身にとって最適な備えを選択するためにも、まずは自身の状況やライフステージを踏まえて必要性を考えてみてはいかがでしょうか。