医療費を賄うために強制的に加入する公的な医療保険と各自が任意で加入する民間の医療保険があります。多くの方は民間の医療保険にも加入し、不測の事態に備えていることでしょう。しかしながら、保険の専門家の中でも民間の医療保険が不要と考える方もいます。そこで、今回は民間の医療保険は不要かどうか、必要性を考えます。そのうえで不要な人について解説します。
医療保険とは
まずは医療保険について基本的な内容を身につけましょう。医療保険には公的な医療保険と民間の医療保険があります。
公的な医療保険と民間の医療保険の違い
公的な医療保険と民間の医療保険には特徴的に違いがあります。公的、民間の双方の医療保険があるので私たちは病気などになっても安心して治療が受けられる部分があります。
公的な医療保険には加入必須
日本では国民皆保険制度と言って誰もが公的な医療保険に加入しないといけません。公的な医療保険は健康保険と言い、職業によって加入する団体が異なります。
ざっくりと分ければ大企業に勤めているなら組合管掌健康保険、中小企業ならば全国健康保険協会、自営業やフリーランス、専業主婦の方であれば国民健康保険となっています。
公的な医療保険の場合はどこに加入するかは選ぶことができないのも特徴です。ただし、義務的に加入することで70歳までなら実際の医療費の3割負担になります。子供や高齢者であれば2割負担となっています。
公的な医療保険でカバーできない部分を民間の医療保険でカバー
公的な医療保険で自己負担が少なく済みますが、それでも高額な医療費になることもあります。公的な医療費の補助で賄えない部分をカバーしてくれるのが民間の医療保険となります。
保険会社は国内に多数ありますし、外資系の保険会社もあります。公的な医療保険と異なり、加入する保険会社や商品は自由に選ぶことができます。自分のニーズに合わせて選ぶことはできますが、加入前に審査があり健康状態を保険会社に告知するのが主流となっています。
告知内容と加入時の年齢や保険内容によって保険料が変わってくるのも特徴です。健康状態に不安があったり一定の年齢を過ぎてしまうと加入できない可能性もあります。
医療保険(生命保険)の世帯加入率は80%以上
民間の医療保険は任意で加入するわけですが、公益財団法人・生命保険文化センターの「平成30年度 生命保険に関する全国実態調査(速報版)」によると医療保険の加入率は88.5%と非常に高い水準になっていることが分かっています。
若年層の医療保険加入率が増加
また、29歳以下の若年層の医療保険の世帯加入率は72.2%となっていて前回の調査から8.4ポイントも増加しています。総合的にみると、現状では医療保険の必要性を感じている方が多い結果になっています。
医療保険が不要と言われる理由
民間の医療保険に加入している割合を考えると不要という言葉は簡単に想像がつきません。では、なぜ、医療保険は不要と言われるのでしょうか。その理由は4つあります。
公的な医療費制度の利用が可能
公的な医療保険は個人の医療費負担が2割や3割で済む他にもいくつかの医療保険制度があります。
高額医療費制度で自己負担軽減
例えば、入院等を伴うケースでは医療費が高額になります。そこで、医療費が一定額に達するとそれ以上は負担しなくてもよい「高額医療費制度」があります。「一定額」とは標準報酬月額により決まります。
標準報酬月額は5段階にわけられており、年収目安が370万円から770万円であれば自己負担限度額は80100円程度で済みます。住民税非課税者であれば自己負担限度額は35400円程度です。
本来ならば数十万円の医療費になるところが公的な医療費制度を使うことで出費を抑えることが可能になります。
高額医療費制度は一年間(直近12か月)で3回(3か月)までの利用ならば標準報酬月額に応じた自己負担限度額になりますが4回目(4か月)以降の利用からさらに自己負担限度額が引き下がります。
注意点とすれば、窓口で支払った医療費が一定額を超えた場合に一定額から超えた分を支給する制度です。つまり、まずは自分で医療費を支払わないといけないといけません。
収入が減少したら傷病手当金でカバー
高額医療費制度ではすぐに医療費の工面ができない方なら傷病手当金の支給を受けて医療費に充当できます。
傷病手当金の支給を受けるには「業務外の病気やけがで治療中」、「病気やけがで仕事ができない状態」、「4日以上仕事を休んでいる」、「休んでいる間に給与をもらっていない」という条件を満たす必要があります。
長期的な療養を必要とするケースならばすべての要件は満たすでしょうから申請には特に問題ないと考えられます。
傷病手当の支給額はこちらも標準報酬月額を使いますが給与の約3分の2を最長1年6カ月間にわたり受給できます。申請は1か月ごとに行うことができ、月給制の会社であれば給与の締め日が過ぎれば請求が可能です。
例えば、毎月末締めの会社があるとしましょう。その会社において11月の傷病手当金の申請をするなら11月30日を過ぎた段階で申請が可能です。
実際、支払われるのは申請から2~3週間かかります。その間の生活費等は用意しておく必要はありますが、高額医療費制度よりは即効性のある医療費制度になります。
医療保険は長期的な入院には備えられない
民間の医療保険は長期的な入院に対応していないケースも多くあります。1回の入院で最大何日まで保険金を支払うか上限が定められています。
仮に1入院が60日までとなっていれば61日目以降の保険金は受け取ることができなくなるのです。さらに、同じ疾病による入院は1入院とカウントされてしまうので、一旦、退院して再発した場合でも1入院となります。
最初に30日間入院し、退院しても再発して40日間入院してしまえば1入院は70日とみなされてしまいます。1入院が60日の保険の医療保険に加入したら10日間の保険料は下りないことになります。
退院から180日以上経過していると別の病気とみなされ1入院にカウントはなされません。ところが、病気を再発する方であれば半年以上も健康状態が保たれるのは非常に考えにくいです。
現状、多くの医療保険は1入院60日か120日がおおくなっています。万が一の事態になった際に頼りにならない可能性もあるのです。ですから、医療保険は不要と考える方もいます。
入院中心の保障内容が不利になってきている
民間の医療保険の商品構造がそもそも時代に合わなくなってきているのも不要と言われる理由の一つです。
医療保険は入院給費金と手術給付金が主契約となります。保険会社が保険金を支払うのは入院したかどうかがポイントになっています。「入院1日○○円」や「入院中の手術は▲万円」などの契約内容をよく見かけると思いますが大きなポイントなわけです。
一般病床の平均在院日数が減っている
入院日数が医療保険のポイントになりますが政府の方針などもあり通院治療や在宅治療を強化する流れになっています。
入院日数の短縮化にも乗り出していて、厚生労働省の病院報告(平成30年1月分概数)では一般病床の平均在院日数が17.2日となっています。
平均在院日数は入院から退院までの日数の平均ですから、一般病床における入院期間は17日程度にとどまる計算です。
数年前より平均在院日数の微増は見られますが17日間程度の入院となると思ったよりも保険金がもらえなかったり、支払った保険料に見合わないことも考えられます。それなら、貯蓄等で賄ったほうがいいと考える方もいるわけです。
医療費の支払事由が厳しい
民間の医療保険の基本的な保障では賄えない部分は特約で補います。特約には三大疾病に対するものがあります。ところが、仮に三大疾病にかかったときも支払事由の厳しさがあります。
三大疾病特約は寝たきり状態が60日以上
三大疾病特約で時々、指摘されるのが脳卒中や急性心筋梗塞において所定の状況を満たさないと保険金は支払われません。
その所定の状況とは「労働の制限を必要とする状態」が60日継続している場合を意味することが多くなっています。
端的に言えば、ほぼ寝たきり状態が継続して60日以上ですから厳しい支払事由と考えられんす。保険金支払いに柔軟に対応する商品もちらほら出ているものの特約を付けたところでスムーズに使えないのは期待外れになります。
医療保険は必要だと思える理由
ここからは医療保険が必要だと思う理由について解説していきます。不要だと考える理由と同様で4つの理由があります。
公的な医療保険は万全とはいえない
公的な医療保険は自己負担が少なくて済むうえに、高額医療費制度や傷病手当金などの医療費制度があります。ところが、それだけではカバーできない可能性もあります。
高額療養費制度の内容改悪でカバー仕切れなくなる
高額医療費制度は自己負担限度額が定めてあり、それ以上の負担を強いられることはありません。国民にとっては非常に心強い制度ですが制度の見直しが入ることも考えらます。
日本の医療費は年々増加してきており、平成25年度からは40兆円を超えてきています。高齢化が進む流れを考えるとさらに医療費が膨張していくでしょう。
国が負担する医療費は昨今の政治課題にもなっていますが、そのしわ寄せは国民に来るかもしれません。
制度自体は消滅しなくとも自己負担限度額が引き上げられる可能性もあります。そうなれば自腹を切って支払うわけですから民間の医療保険に頼らざるを得なくなります。
そもそも高額医療費制度には落とし穴がある
高額医療費制度はしっかりと確認すると見落としてはいけない部分が潜んでいます。単純にかかった医療費はすべて制度利用が可能なわけではありません。
特別療養環境室料と先進医療技術料は自己負担
高額医療費制度が使えるのは健康保険が適用される医療費になっています。健康保険適用外の特別療養環境室料(差額ベッド代)や先進医療技術料は自己負担となります。
差額ベッド代とは簡単に言うと個室や少人数部屋に入った場合のベッド代のことです。多くの方は個室や少人数部屋を希望すると思いますがその費用は自己負担となります。
また、先進医療技術料とは体に優しい、負担の少ない治療を行ったときに請求される医療費です。一例をあげると日本人の死因でも多い心疾患において、できるだけ負担を減らす治療法があります。
厚生労働省の平成27年選定療養届出状況によれば差額ベッド代の1日平均は6155円となります。20日の入院をすれば18万円程度は自己負担になるわけです。
先進医療技術は現在100種類以上あり、それぞれで医療費は異なります。1医療当たりの先進医療費用でみると先進医療Aにかかる費用は75万円程度、先進医療Bに係る費用は54万円程度となります。(厚生労働省、先進医療の実績報告、平成28年6月30日時点)
いずれにせよ非常に高額になるのはお分かりになったと思います。これらを自己負担で賄えるかどうか不安に思う方も多いのではないでしょうか。
傷病手当は会社員しか使えない制度
先ほど傷病手当金についても解説しましたが、申請できるのは会社員のみとなっています。会社員が加入している健康保険から手当てをもらう制度になるので、自営業者やフリーランスの方は制度利用ができません。
自営業者ならなおさら働けなくなった時の金銭的リスクは高まるので民間の医療保険への加入を考える方がいるのです。
医療費に備えるための貯蓄は時間がかかる
極論ですが貯金が数千万も数億円もあれば万が一、病気になって高額な医療費がかかったとしても問題にはなりません。
ところが、もしもの時のために貯金をしていこうと考えても数十万や数百万を貯めるには年月がかかります。
民間の医療保険に加入すれば掛け捨て型であっても月々数千円で様々な保障がつきます。ですから、多くの方はお守りのように医療保険に加入しているわけです。
保険商品も様々なものが登場している
特約を付けても支払事由のハードルが高いなどと保険商品の柔軟さに触れました。ただ、最近は時代の流れも加味されたのか様々な保険商品が販売されています。
長期入院に対応した保険商品もある
1入院の日数が60日か120日がほとんどでありましたが中には365日や1000日以上の1入院支払限度日数にする商品も出てきています。
1入院支払限度日数が長い商品に加入し、短期的な入院なら高額医療費制度や貯蓄でカバーする選択肢も出てきます。長期間の療養が必要なときでも安心できる商品が出てきたのは嬉しいことです。
医療保険料を支払い続けて元は取れるのか
民間の医療保険に加入する方が気になることに「保険料を払い続けていっても最終的にもとがとれるのか」があります。
医療保険は多くの人が損をする
結論から言うと医療保険は多くの人が損をします。具体的なケースを考えると現在30歳の男性、入院日額1万円で1入院支払限度日数が60日。そして、保険料は終身払いで月額5000円、60歳払い済みなら月額6000円とします。
この男性が80歳まで生きたなら終身払いは5000円×50年(600か月)=300万円の保険料を支払うことになります。一方、60歳払い済みなら6000円×30年(360か月)=216万円支払います。
概算的になりますが60歳払い済みの216万円のもとを取るには30日程度の入院なら7回しないと割に合わない計算です。机上だけの計算ですが30日程度の入院を生涯で7度も行う方はなかなかいないと思えます。
しかし、医療保険に加入している人々の支払った保険料と保険会社が支払う保険金が同じようでは成り立たないのはいうまでもありません。加入している一部の方を支えるのが医療保険であるのを理解しておく必要はあります。
結局、医療保険は必要なのか
ここまで、民間の医療保険は不要なのか必要なのか、いろんな視点から解説してきました。最後に医療保険は必要なのかどうかを解説します。
医療保険が必要な人とは
まずは医療保険が必要な人についてとりあげます。
急な医療費が発生すると生活に支障が出る人
持病などがなくても急に病気になることもあります。急な医療費が必要になった時に公的な医療保険や医療費制度で賄えないと考える方は民間の医療保険の加入を考えましょう。
医療費で生活が圧迫されては病気が治ってもそのあとの生活が苦しくなります。貯金が少ない方は特に必要だと考えられます。
手厚い医療を受けたい人
個室の落ち着いた部屋で入院生活を送りたい、先進医療技術で治療をうけたい。そのような手厚い医療を受けたいときには民間の医療保険でしっかりカバーしたほうがいいでしょう。
それから、長期的な入院を保障する商品も登場していますから長期入院に備えたい方も医療保険を前向きに考えてみてはどうでしょうか。
なんだかんだ言ってもしもの時に備えたい人
自分自身の明確な理由がなくてももしもの時に備えたいなら医療保険を検討してください。民間の医療保険は損得でいうと損をする可能性が高いわけですが、安心材料とそして加入するのもありです。
医療費を捻出するために貯蓄を大きく切り崩したくない、病気をしている期間中でも収入をできるだけ落としたくない方などもお守りとして加入を考えてもいいでしょう。
貯蓄が豊富にある人は医療保険は不要
医療保険が不要なのは先にも申したように貯蓄が豊富にある方です。十分な貯蓄があれば高額な医療費を負担しても生活に支障が出るレベルにはならないと考えられます。
100万円単位のお金でもすぐに動かせるなら医療保険は不要
貯蓄がどの程度あれば医療保険は不要かと言えば100万円単位でもすぐに動かせるかどうかです。
先進医療を利用すれば数十万円、数百万円単位での医療費負担となります。もちろん、欧的な医療保険で2割か3割程度の自己負担ですが、高額な請求がなされても問題ない貯蓄があれば民間の医療保険の必要性はないわけです。
まとめ
医療保険には必ず加入する公的なものと、任意で加入する民間の医療保険もあります。民間の医療保険は不要なのかどうなのかを今回は解説しました。
最終的に判断すべき基準は現在の家計状況と医療保険に対する価値観です。高額医療費制度や傷病手当金で賄えると考えれば、貯蓄が少なくても医療保険は不要でしょう。
逆に、数百万円もの蓄えがあっても何かあれば不安だと考えれば医療保険は必要になります。今回、医療保険が必要な人、不要な人と解説はしましたがそれがすべてでもありません。
本記事を参考にし、再度、医療保険について考えていただければ幸いです。