海外出張の保険|海外旅行保険

海外出張は長期滞在となることが多く、保険期間が長期にわたる海外旅行保険で備えるのが一般的です。そんな海外出張の保険について、仕組みや特徴を解説します。
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日本の企業が海外の企業と取引することは、大企業だけでなく、中小企業においても一般的となってきました。海外出張する機会も多くなり、リスク管理の重要性が増してきています。リスク管理の重要な項目として、海外出張保険があります。

海外出張保険とはどのようなものか

海外出張保険は、「出張用の海外旅行保険」と言い換えることができます。観光目的で海外旅行をするときに加入する「海外旅行保険」の内容と基本的に変わりませんが、仕事目的で海外へ行く場合、海外での滞在期間が長期化する可能性があります。そのため、想定される滞在期間によって、保険商品が分けられているのが一般的です。

海外出張保険(出張用の海外旅行保険)の補償内容

出張用の海外旅行保険がどのようなことを補償しているのか、一般社団法人日本損害保険協会のホームページを参考に一つずつ見ていきましょう。

自分自身がケガや病気をしたときの補償

出張用の海外旅行保険で真っ先におさえておくべきことは、自分自身が海外でケガや病気をしたときに、どのような補償を受けられるかということです。一般的には、次のような項目の補償があります。

【傷害治療費用】:ケガの治療費用を補償

ケガ(傷害)をした場合に、その治療費用が補償されます。ただし、契約者、被保険者(保険加入当事者)、保険金受取人の故意や重大な過失によるものは補償の対象外とされています。

【疾病治療費用】:病気の治療費用を補償

病気(疾病)の場合は、出張期間中に発病した病気であり、出張中か、または出張終了後72時間以内に医師の治療を受けた場合の治療費用が補償の対象となります。

【傷害死亡】:ケガで死亡した場合を補償

海外出張中にケガ(傷害)によって死亡した場合、保険金が支払われます。

【疾病死亡】:病気で死亡した場合を補償

海外出張中に病気(疾病)で死亡した場合、保険金が支払われます。

【傷害後遺障害】:ケガによって後遺障害を負った場合を補償

海外出張中にケガ(傷害)によって後遺障害を負った場合、保険金が支払われます。

【入院一時金】:ケガや病気で一定期間以上入院した場合を補償

ケガ(傷害)や病気(疾病)で一定期間以上入院した場合、保険金が支払われます。

【救援者費用】:ケガや病気で入院して家族が現地に駆けつけた場合の費用を補償

ケガ(傷害)や病気(疾病)で入院したため、家族等が現地に駆け付けた場合に保険金が支払われます。家族等の救援者の現地までの往復運賃や現地で支払った交通費だけでなく、救援者の宿泊料金、遭難した場合の捜索費用、救助や移送をするための費用、治療継続中の状態で日本の病院まで移動するための費用等が該当します。

自分自身の所有物が盗難されたり壊したりしたときの補償

海外出張の際は、タブレット端末やノートパソコン等、様々な仕事道具を持っていくことでしょう。また、高級スーツや高級腕時計を持参して仕事に臨む人もいるかもしれません。そのような自分自身の所有物を補償する内容です。

【携行品損害】:自分自身の所有かつ携行する身の回り品が盗難にあったり壊れたりした場合を補償

自分自身の所有かつ携行する身の回り品が、盗難被害にあったり、誤って壊してしまったりした場合に保険金が支払われます。ただし、一般的には、現金、小切手、預貯金証書、クレジットカード、定期券、コンタクトレンズ等は補償の対象外となります。

一般的に補償の対象となる場合は、携行品の損害額を「時価」(使用による消耗分を差し引いた金額)で算定した保険金が支払われますが、修理不能などの場合に「新価」(同等の商品を新品で購入できる価格)で算定した保険金を支払う保険商品もあります。

他人にケガをさせたり、他人の物を壊したりしたときの補償

海外出張先の慣れない生活環境の中では、さまざまなトラブルが起こりがちです。場合によっては、誤って他人にケガをさせてしまったり、他人の物を壊してしまったりすることがあるかもしれません。

【賠償責任】:誤って他人にケガをさせたり他人の物を壊したりした場合を補償

海外出張中に誤って他人にケガをさせてしまったり、他人の物を壊してしまったりした場合に保険金が支払われます。普段住み慣れた場所では、例えば車を運転していても、「この交差点からの飛び出しを注意しよう」など、特に注意すべきポイントを把握していることでしょう。でも、住み慣れていない海外生活では、思わぬところから人が飛び出してきたり、現在地を確認するために上ばかり見ていて気付いたときには何かとぶつかっていたりすることがあるかもしれません。そのため、賠償責任の補償特約に加入しておくことが大切です。

なお、「賠償責任」の補償の対象となる内容としては、被害者に対する損害賠償金(治療費、修理費、慰謝料など)だけでなく、弁護士費用や訴訟になった場合の関連費用等も一般的には補償の範囲内となります。

その他、やむを得ず損害が発生したときの補償

自分自身がケガや病気をした場合の補償、自分自身の物が盗難被害に遭ったり壊したりした場合の補償、他人にケガをさせてしまったり他人の物を壊したりした場合の補償の他に、海外出張保険の補償内容の中には、以下のような項目もあります。これらの項目の補償については、1回あたりの事故に対して補償金額の上限を設けている商品が一般的です。気になる方は、これらの補償特約も検討してみてください。

【航空機寄託手荷物遅延費用】:手荷物の到着が遅れて身の回り品を購入した場合の費用を補償

飛行機に預けていた手荷物が何らかの手違いで到着が遅れてしまったために、身の回り品を購入した場合に保険金が支払われます。

【航空機遅延費用】:航空機が遅れて宿泊代・食事代などを別途自己負担した場合の費用を補償

搭乗する予定だった飛行機の到着や出発が遅れたために、やむを得ず宿泊代や食事代を自己負担した場合に保険金が支払われます。

【旅行変更費用】:死亡・危篤または入院、渡航先でのテロ行為などの発生のために出国を中止または海外出張を途中で取り止めて帰国した場合の費用を補償

被保険者(保険加入者)や同行予定者などの死亡・危篤または入院、海外出張先での地震・戦争・テロ行為などの発生のために出国を中止、または海外出張を途中で取り止めて帰国した場合に保険金が支払われます。

【偶然事故対応費用】:予期せぬ偶然な事故で負担を余儀なくされた費用を補償

海外出張中に予期せぬ偶然な事故で被保険者(保険加入者)が負担を余儀なくされた費用(交通費、宿泊代、食事代、通信費など)が発生した場合に保険金が支払われます。

企業担当者が考慮すべきポイント

海外出張する社員が、いつ、どこで、事件や事故に巻き込まれるかはわかりません。実際、テロや誘拐に遭遇するケースも発生しています。また、そのような非常事態だけでなく、ケガをしたり、慣れない海外生活から病気をしたりすることもあります。海外出張が必要な企業の担当者は、リスク管理について問題意識を持ち、なるべく早めにルール化しておくことが大切です。

法人契約を結ぶかどうか

海外出張する社員が複数名以上いる場合は、保険会社と海外出張保険について法人契約を結ぶかどうかを検討してください。特に滞在期間が長期化する場合、出張用の海外旅行保険の保険料が数十万円となる商品もあります。社員個人の判断に委ねるには、負担が大きすぎると言えるでしょう。保険会社と法人契約を結ぶことで、以下のようなメリットがあります。

法人契約のメリット1:社員の保険料は全額損金処理できる

海外出張する社員のための保険料を会社が負担する場合、保険料の全額を損金処理できます。海外滞在期間が長くなればなるほど保険料は高額となりますが、保険料を全額損金処理できることは会社としては大きなメリットと言えるでしょう。なお、経理処理するときの勘定科目ですが、「保険料」「支払保険料」とするのが一般的です。

法人契約のメリット2:保険料の割引、事務作業の効率化

保険料を会社が負担する場合は全額損金処理できるとはいえ、補償内容のレベルを下げることなく、できるだけ保険料を抑えたいのも事実でしょう。法人契約を締結すれば、全体としての保険料を割引できる可能性がありますので、保険会社に相談することをおススメします。また、包括的な法人契約を結ぶことで、個別に出張用の海外旅行保険に加入するときよりも事務作業を効率的に進めることができます。

法人契約のメリット3:社員の信頼を得られる

海外出張が発生する場合、会社としてどのような補償内容の保険に加入するかをルール化することが大切です。その上で、海外出張する社員に、事前に会社としてどのような保険に加入したかを明らかにするとよいでしょう。そうすることで、社員からの信頼を得ることができますし、社員のほうでも、会社の保険以外で個人的に追加したい補償内容を明らかにすることができます。

保険会社・保険代理店との取引

企業がビル等の不動産を所有していれば火災保険に加入しているでしょうし、自動車を所有していれば自動車保険に加入していることでしょう。仮に初めて海外出張が発生する企業であっても、それまでに火災保険や自動車保険、または賠償責任保険などで保険代理店と取引があるのではないでしょうか。それぞれの部署で、個別に保険加入していたのであれば、これを機会に信頼できそうな保険代理店に、さまざまな保険内容の見直しを相談するのもよいかもしれません。

労災保険が適用となるかどうか

一般的には、海外出張時のケガについても労災保険が適用されますが、労災保険が適用外となるケースもありますので注意が必要です。海外で勤務する場合、日本の会社の指揮命令に従って従事している場合は「出張」とみなされ、一般的には労災保険が適用されます。一方、海外滞在期間が短くても、海外の事業所の指揮命令下で従事する場合は「派遣」とみなされ、労災保険が適用外となる可能性があります。

また、労災保険が適用になる場合でも、国内でケガした場合よりも一般的には保険金請求の手続きが煩雑ですので、事前に確認しておくとよいでしょう。

リスク管理体制は構築されているか

保険についての内容とは少し異なりますが、海外出張が発生する企業側としては、リスク管理体制を構築しておくことが重要です。万一、海外出張している社員がテロ等の非常事態に遭遇した場合、どのような体制で会社としてフォローしていくか、指揮命令の責任者は誰か、を明らかにしておけば、いざというときに役立ちます。もちろん、このような非常事態は発生しないことを祈るばかりですが、リスク管理体制を明らかにしておくことで、フォローする側の当事者意識を植え付けることできます。

個人で海外出張する際に考慮すべきポイント

個人事業主など、個人的に海外出張保険に加入する必要がある場合、保険商品を選択する上で特に考慮すべきポイントがあります。それぞれの内容で気になるところがあれば、保険加入手続きをする前にご確認ください。

クレジットカードに付帯された海外旅行保険

ご自身が持っているクレジットカードには、海外旅行保険が付帯されている可能性があります。クレジットカードの海外旅行保険が、海外出張時も対象となる可能性がありますので、その内容を把握してください。なお、クレジットカード会社がサービスの一環として提供している保険ですので、補償金額や補償範囲等の内容は手薄になりがちです。まずはその内容の把握に努め、手薄な部分を別の保険で補っていくとよいでしょう。

出張先の国・地域の医療費の相場はどうか

海外出張中にケガや病気をして海外の病院で受診した場合、特に手術・入院した場合の請求金額が数千万円になるケースもありますので細心の注意が必要です。海外出張先の医療費の相場が高い国・地域であれば、ケガ・病気に関連する補償内容が手厚い保険商品を選択する必要があります。

【海外療養費制度】

海外出張保険に加入せずに海外の病院で治療を受けた場合でも、「海外療養費制度」がありますので、治療費の一部を給付申請することができます。この制度は、日本の健康保険に加入していれば対象となります。ただし、立替金の支払いが発生しますし、治療費の自己負担相当額(日本では治療費の3割分)を差し引いた金額がすべて戻ってくるわけではありません。日本国内の医療機関で同じケガや病気で治療を受けた場合に発生する治療費を基準に計算した金額か、または実際に海外で支払った治療費の金額のどちらか低いほうで、自己負担相当額を控除して支給されます。

キャッシュレス診療を受けることができるか

治療費用の補償内容を手厚くしておけば、万一海外の病院で治療を受けた場合でも安心です。ただし、補償金額さえ手厚くしておけばよい、というものではありません。仮に海外の病院の治療費全額が補償されることになったとしても、キャッシュレス診療を受けることができなければ、一度高額な治療費を自分自身で立て替える必要があります。

「キャッシュレス診療」とは、保険会社が提携している病院に対して保険会社が直接交渉し、患者である保険加入者が立替金の支払いが発生しないように手配してくれるサービスのことです。このサービスが付帯されていれば、海外の病院で治療を受けなければならないことになっても、保険会社が病院との間に入って交渉してくれますし、立替金の支払いも発生しませんので、金銭面な負担もありません。

24時間365日つながる日本語サポートサービスはあるか

海外で何か問題が発生した場合でも、24時間365日つながる日本語サポートサービスがあれば、いつでも安心です。海外で問題が発生した場合は特にパニックに陥りがちですが、日本語によるサポートを受けることで、まずは気持ちを落ち着かせることができることでしょう。その上で、起こったことを冷静に相談し、指示を仰げば、その後の適切な行動をとることができるようになるでしょう。

もちろん、旅行先の言語を使いこなせる人であれば不要なサービスですが、海外旅行に慣れていなかったり、旅行先で日常会話にも支障があったりする場合には、ぜひともおさえておきたいポイントです。また、「通訳サービス」が付帯されているかどうかも事前に確認しておくとよいでしょう。「医療通訳サービス」が付帯されていれば、受診時に困ることもなくなります。

携行する物に高額なものは含まれていないか

海外出張の場合、海外旅行とは異なり、仕事道具も持っていきますので、通常は携行品が多くなります。そこで、携行品チェックシートをつくることをおススメします。チェックシートを作ることで、忘れ物を未然に防ぐことができますし、どの程度の携行品補償特約に加入すべきかを把握することにもつながります。ノートパソコンやタブレット端末を持っていくことが考えられますし、場合によっては、高級スーツや高級腕時計を持参して仕事に臨む人がいるかもしれません。このチェックシートをもとに、携行品の補償内容がどの程度充実した保険商品に加入すべきかを判断していきます。

まとめ

海外出張保険では、企業で加入する場合と、個人で加入する場合があります。企業で加入する場合、企業担当者は、どのような基準で海外出張保険に加入するのか、その明確なルールをつくり、不公平感のないようにしていく必要があります。その上で、海外出張する社員の不安感を払拭し、会社に信頼感を持って安心して海外で仕事をしてもらえるようなフォロー体制を構築することまで対応していくことが大切です。

また、個人で海外出張保険に加入する場合は、自分自身の持っているクレジットカードにどのような海外旅行保険が付帯されているのかを確認することから始めるとよいでしょう。その上で、出張先の国や地域の医療費の相場を調べ、どの程度の補償内容にすべきかを明らかにしていきます。また、キャッシュレス医療サービスに加入するかどうか、24時間36日対応の日本語サポートサービスに加入するかどうかなど、自分自身の置かれた状況を判断し、安心して海外で仕事ができる体制に自ら構築しておくことが大切です。

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