終身保険は一生涯の安心を手に入れることができる反面、保険料が割高で一度加入すると見直しもしづらいため、加入前にご自身に適しているかをしっかり検討する必要があります。
ここでは、終身保険の特徴やメリット、デメリットを確認した上で終身保険が必要なケース・不要なケースについて考えていきます。
1.終身保険の特徴
終身保険の必要性を考える前に、終身保険の特徴について確認していきます。
1-1.終身保険の定義
終身保険とは、文字どおり一生涯続く保険のことを言います。
「終身医療保険」「終身がん保険」のように終身型の保険は様々な保障を目的とするものがありますが、単に「終身保険」と表現する場合は終身型の死亡保険を意味することが一般的です。この記事では、終身型死亡保険の必要性を考えていきます。
終身保険は保障と貯蓄を兼ね備えた保険です。被保険者が亡くなったり高度障害となった場合に、保険金を受け取ることができる上、保険料は掛捨てではないため途中で解約すると解約返戻金を受け取ることができるのです。
保険期間という点において終身保険と対比されるのは、定期保険です。定期保険は、掛捨ての保険料を支払いながら10年や15年などのように一定期間のみの保障を得る仕組みです。
1-2.終身保険の支払い方法
支払い方法の違いで分類すると、終身保険には平準払い型と一時払い型の二つのタイプがあります。それぞれの支払い方法を見ていきます。
1-2-1.平準払い型
平準払い型では、月払い、年払いなどの支払い方法で将来の保障や貯蓄を準備します。
年払いで支払いをすると、月払いよりも保険料が割引になるメリットがあります。
また、さらにお得な方法として全ての払込期間の保険料をまとめて保険会社に支払う全期前納という方法もあります。保険会社は全期前納で預かった保険料をプールしておき、その中から毎年保険料支払いをします。
したがって、月払い、年払い、全期前納のすべての支払い方法で毎年生命保険料控除を受けることが可能です。
1-2-2.一時払い型
一時払い型は、保険料をまとめて一括で払い込むタイプの保険です。見た目は全期前納と似ていますが、一時払い型では全期前納のように保険会社が保険料をプールすることはなく、初年度に全ての払込みが完了します。したがって、生命保険料控除が利用できるのも初年度のみとなります。
平準払い保険がまだ貯蓄がそれほど多くない働き世代の家庭に選ばれる傾向があるのに対し、一時払い保険は既に十分な貯蓄があり子どもに資産を残すことや、相続対策を考えている世代に選ばれる傾向があります。
1-3.終身保険の払込期間
平準払い終身保険の払込期間は、保険会社によって様々なバリエーションの中から選択が可能です。10年払い、15年払いと年数を指定するものや、60歳払込、65歳払込などと保険料支払いが完了する年齢を指定するタイプがあります。
1-4.終身保険の返戻率
終身保険の返戻率は日銀によるマイナス金利導入の影響で低くなっています。1990年代前半までに加入した終身保険は、非常に利率が良く資産を保険の形にしておくだけで増やすことができるお得な商品でしたが、今現在はある程度の年数をかけることで銀行の預貯金よりは利回りが良くなるとは言え、元本を大きく増やす効果はそれほど期待できなくなっています。
終身保険と言えば、契約時に返戻率や保険金額が確定しており、中途解約をしなければリスクもほとんどないタイプの円建て終身保険が一般的で、この記事では主に円建て終身保険について解説していますが、近年はこの予定利率の低さを改善するために、低解約返戻金型終身保険、積立利率変動型終身保険、外貨建て終身保険、変額終身保険などそれぞれ独自の特徴を持った終身保険も人気が出てきています。次の章では、これらの様々な運用スタイルを持つ終身保険について特徴を解説します。
1-5.終身保険の種類
ここでは、返戻率を少しでも上げたいという場合に選ばれる4つのタイプの終身保険について解説します。
1-5-1. 低解約返戻金型終身保険
低解約返戻金型終身保険は、保険料払込期間中に解約した場合の返戻率を低く抑え、払込期間完了後の解約返戻金を大きくしている終身保険です。
一定期間の保険料支払いをクリアできれば、通常の円建て終身保険に比べて高い返戻率が期待でき貯蓄効果が大きくなることから近年人気のタイプです。
1-5-2. 積立利率変動型終身保険
積立利率変動型終身保険は金利情勢に応じて利率が変動するタイプの終身保険です。通常の円建て終身保険では、予定利率は加入時の利率に合わせて固定されるようになっていますが、今現在の金利水準で長い期間保険に加入することがデメリットであると考える人も多いです。
積立利率変動型終身保険では、日本の金利が上昇すれば、その恩恵を受けてより良い条件で解約返戻金が増えていくことになります。
1-5-3. 外貨建て終身保険
外貨建て終身保険は、アメリカドル、オーストラリアドル、ニュージーランドドル、ユーロなどの外貨で運用をする終身保険です。
現在は、金利が高くなっていることからアメリカドルでの運用が主流となっています。
毎月の保険料を外貨に替え、円建て保険よりも高い利率で運用をしていきます。資産は外貨ベースでは増え続けますが、解約返戻金や保険金を受け取るときに再度円に戻すため為替リスクが加わり、元本以上の利益を受けられないリスクもあります。
円建て保険のように、一定期間を過ぎれば払い込んだ保険料以上の返戻金を受け取ることができるという確実性がなく、リスクのある運用商品に分類されます。
1-5-4. 変額終身保険
変額終身保険は、資産の一部を投資信託などの値動きのあるもので運用するタイプの保険です。解約時に値上がりをしている場合には、高い返戻率で解約返戻金を受け取ることができますが、逆に値下がりしている場合には損をしてしまうこともあります。最低保障額が設定されていますが、外貨建て終身保険と同様にリスク性商品となります。
2.終身保険のメリット
次に、終身保険のメリットを解説していきます。
2-1.確実に貯蓄ができる
積立型の終身保険を選択した場合には、毎月または毎年保険料が自動的に引き落とされることになります。
貯蓄が苦手な人は、毎月コツコツと貯蓄をすること自体が難しかったり、ある程度貯まると使いたくなってしまうなどの特徴がありますが、保険の形にすると中途解約による元本割れや解約手続きの煩雑さから気軽に貯蓄を崩すのを防ぐことができます。
2-2.保険金をいつか必ず受け取ることができる
終身保険は、解約をしない限りはいつか必ず死亡保険金を受け取ることができます。保険期間が決まっている定期保険では加入期間に万が一のことが起きない限りは何も受け取ることができませんが、終身保険は支払った保険料が死亡保険金受取人に保険金として還元されるのです。
2-3.生命保険料控除で節税することができる
終身保険に加入すると、保険料払込が満了するまでの間、毎年生命保険料控除を受けることができます。
生命保険料控除とは、その年に支払った保険料の一定額が所得から控除され、所得税や住民税を節税できる方法を言います。
終身保険は一般生命保険料控除枠に該当し、平成24年以降に加入した保険契約であれば年間払込保険料に応じて最高で4万円の控除を受けることができます。
上限である4万円の控除を受けた場合、所得税率20%(課税所得330万円超695万円以下)に該当する方であれば、所得税と住民税合わせて12,000円の節税効果を得ることができます。
銀行預金で積立をしていた場合にはこのような節税効果による還元はないため、終身保険で貯蓄をするメリットは大きいと言えます。
2-4.相続対策ができる
終身保険は、一般的に配偶者または二親等以内の血族を保険金受取人として指定することができます。
相続が発生したときに法定相続分に沿って遺産分割をするのであれば問題ありませんが、遺産の一部に不動産などの分けることが難しい資産がある場合や、特定の相続人に多く資産を残したいなどの希望があり平等に分割できないこともあります。このようなケースでは、相続トラブルに発展することも少なくありません。
しかし、生命保険を使い受取人を指定しておくことで、誰に残す資産なのかをはっきりさせることができ遺産争いを避けられることもあります。そのため、相続対策として活用するメリットがあります。
また、税制面でも終身保険を活用するメリットがあります。
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除がありますが、この金額を超えて相続資産がある場合には相続税が発生します。
しかし、保険には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があり、資産の一部を保険の形に変えることで節税効果を得ることができます。
例えば、法定相続人が3人(配偶者と子二人など)の場合には、死亡保険金として資産を残すことによって1,500万円が非課税となるのです。
ただし、契約者や被保険者など契約形態によって対象外となるケースもあるため、相続税対策として保険を利用したい場合には保険の専門家に相談することをおすすめします。
3.終身保険のデメリット
次に、終身保険のデメリットを見ていきます。
3-1.中途解約をすると元本割れをするリスクがある
貯蓄性のある終身保険ですが、中途解約をすると元本割れが起こる可能性が高いです。契約して間もない頃の返戻率が最も低く、徐々に返戻率が上がっていくのが通例です。低解約返戻金型終身保険などでは、払込期間が満了するタイミングで返戻率が100%を上回り元本が確保できるというケースが多いです。
3-2.保険料払込期間が比較的長い
多くの終身保険では、10年以上払込期間が続くようになっています。払込期間が長く、その間に家族構成や職業などが変わるケースも珍しくないため、長期的に見て支払いを継続できるかを見極めることが大切です。
3-3.定期保険に比べて保険料が割高
掛捨ての定期保険に比べると、終身保険は保障だけではなく貯蓄としての効果もあるため保険料が割高になります。
また、終身保険の保険料は一生涯定額であるため、特に若いうちの保険料が割高になってしまいます。定期保険の保険料は年齢が上がるにつれて高額になっていくため、年齢とともに保険料の差は小さくなっていきます。
3-4.一度加入すると見直しにくい
払込期間は一般的に10年以上、中途解約をすると元本割れで損をしてしまう可能性があるということを解説しましたが、それゆえに終身保険は一度加入すると見直しにくいというデメリットがあります。
家族構成や必要な保障額が変わった、毎月の支払いが厳しくなった、新たにより魅力的な終身保険が登場したといった場合でも一度加入してしまった終身保険は簡単に切り替えることができません。
4.終身保険は必要か|向いているタイプ
ここまで説明してきた終身保険の特徴、メリットやデメリットを踏まえて終身保険の必要性について考えていきます。まずは、終身保険が向いているタイプを解説します。
4-1.子どもの学費を貯めたい
最近は、学資保険の代わりに終身保険を活用する例が多くなってきています。保険料払込期間を15年などに設定することで、子どもが0歳から15歳になるまで保険料を積立て、しばらく寝かせて大学進学時に解約返戻金を入学金や授業料として使うという方法が一般的です。
各社商品性に大きな違いがない学資保険に対し、終身保険には低解約返戻金型、外貨建て、変額タイプなど様々な種類があるためリスク許容度に応じて種類を選択し、利回り良く貯めるということも可能です。
銀行預金で積立をすると途中で使ってしまう可能性があるという人にも向いています。
4-2.老後資金を準備したい
老後資金を準備したいという場合にも終身保険は向いています。
その場合は、60歳や65歳払込を選択し、現役のうちにコツコツ積立をして老後資金を準備するという方法がおすすめです。同時に死亡保障も得ることができ一石二鳥です。
しかし、老後資金を貯める方法には、終身保険の他にもiDeCo(個人型確定拠出年金)や個人年金保険などの方法もあります。
いずれも死亡した場合はこれまでの払い込んだ金額相当分が戻ってくるというもので終身保険のように高額な死亡保険金が出るものではありませんが、iDeCoの場合は、年間に拠出した掛金すべてが所得控除の対象となり、運用で得た利益も非課税になるなど節税メリットは終身保険より高いものになっています。
個人年金保険も個人年金保険料控除が利用できる上、終身保険と同様に多様な運用方法があるため、これらを比較検討してみることもおすすめです。
死亡保障が不要であれば、iDeCoや個人年金のみを利用するのも一案ですし、終身保険で準備できる保険金以上の保障を得たい場合には定期保険とiDeCoまたは個人年金保険を併用するという選択も可能です。
4-3.葬儀代等に充てる死亡保険金がほしい
ご自身の死後、葬儀代に充てる費用を準備しておきたい方にも終身保険は向いています。定期保険では保険期間が終わってしまい使わなかったというケースも多くなってしまうため、いつかは必ず保険金を受け取ることができる終身保険が適しています。
また、葬儀代をあえて保険の形で準備するメリットはほかにもあります。保険金受取人を指定しておくことで、受取人単独の手続きによってお金をスムーズに受け取ることができるのです。
預貯金であれば、法定相続人全員の手続きが必要だったり、故人の戸籍謄本が必要になるなど手続きが複雑で時間も要します。したがって、遺族が単独でスピーディーに葬儀代を用意することができるという点でも終身保険は葬儀代準備に適した方法と言えます。
4-4.貯蓄が苦手
学費や老後資金を貯めるなどのように特定の貯蓄目的がない場合でも、貯蓄が苦手という人には終身保険は向いています。
毎月強制的に積み立てられていくため、解約しない限りは意識せずとも気付くとまとまったお金が貯まっていることになります。
銀行の積立定期は貯まるとすぐに崩してしまうなどの傾向がある人は、終身保険で貯蓄にチャレンジしてみても良いでしょう。
4-5.掛捨てはもったいないと考えている
掛捨ての定期保険は、保険料を抑えながら大きな保障を付けることができるというメリットもありますが、ずっと掛捨てで続けていくのはもったいないという意見もあります。
掛捨てがもったいないと考えるのであれば、貯蓄機能が付いた終身保険が適していると言えるでしょう。
4-6.相続対策をしたい
終身保険のメリットで解説したように、終身保険は相続トラブル回避や相続税の節税ができる効果があります。
相続資産を単純に法定相続分通りに分けられない事情がある人や、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える資産を持っている人には終身保険が向いています。
資産を保険に変えるために時間を要する積立型の終身保険よりも、一時払い終身保険がより適しています。
5.終身保険は必要か|不向きなタイプ
次に終身保険が向かないタイプについて解説していきます。
5-1.十分な貯蓄があり、保障も貯蓄でカバーできる
既に十分な貯蓄がある人は終身保険に加入する必要性は低いと言えます。貯蓄によって、万が一のときに残された家族が生活に困らないのであればあえて保険の形で残す必要はないでしょう。
5-2.扶養している家族がいない独身者や専業主婦
独身もしくは専業主婦の方に死亡保険は必要かという質問は多いですが、基本的に扶養家族がいない場合には死亡保険の必要性は低いです。
死亡保険は残された家族が生活に困る、葬儀代が支払えなくて困るなどという理由で付加されます。ご自身に万が一のことがあった場合に経済的に困難な状況になる人がいるかどうかを基準に加入を検討してください。
5-3.死亡保障は必要だが、保険料を抑えたい
子育て世代では、教育費や住宅ローンなど毎月様々な出費に追われているケースも少なくありません。できるだけ出費は増やしたくないけれど一家の大黒柱のもしものときの保障は必要だという場合には終身保険ではなく定期保険が向いています。
定期保険であれば、年齢にもよりますが月々数千円で2,000万円、3,000万円などの高額な保障を準備することが可能です。
5-4.家族構成や仕事が変わる可能性がある
これから家族構成や仕事が変わる可能性がある場合には、終身保険を契約しても支払いが難しくなることや、保障額が合わなくなる可能性があります。そのため、終身保険の加入はライフスタイルが落ち着いてから考える方が良いでしょう。
その間も保障が必要だという場合には定期保険でつなぎの死亡保険を用意し、じっくり保険料や保障額を考えた上で終身保険に加入することがおすすめです。
5-5.一定期間のみ大きな保障がほしい
子どもが独立するまでなどの一定期間、ピンポイントで大きな保障がほしいという場合には、一生涯保障が続く終身保険ではオーバースペックになってしまいます。
その場合にも定期保険を上手に活用して必要な期間だけ死亡保障を備えることがおすすめです。
6.【番外編】加入中の終身保険の解約で悩んでいる方に知っておいてほしいこと
返戻率が100%を超えたなどの理由で加入している終身保険を解約したいけれど、本当に解約しても良いものなのかと悩んでいる人も多いです。
ここでは、解約前に確認していただきたいことを紹介します。
6-1.一度大きな病気をすると保険の再加入は難しい
一般的に一度大きな病気をすると保険の再加入は難しくなってしまいます。特に、積立型の終身保険に関しては、払込保険料に対して高額の死亡保険金が付くため、告知事項が厳しくなっているケースが多いです。そのため、解約を考えている方は病気によって再加入できなくなるリスクを考えた上で検討してみてください。
6-2.契約年齢に応じて保険料が上がる
積立型の終身保険は、契約年齢に応じて保険料が上がっていきます。今契約している終身保険を解約した場合、今後新たに終身保険に加入したいと思っても今よりも保険料が高額になるのが一般的です。
終身保険の解約で悩んでいる場合には、今加入している保険と同様の内容の保険に加入し直すと保険料がどれだけ上がるかということを確認した上で決めることをおすすめします。
6-3.お宝保険は継続すべき
終身保険は低金利政策、マイナス金利政策を経て利率が低下してしまいましたが、1990年代前半までに加入したものであれば、高利率の「お宝保険」である可能性が高いです。
そのようなお宝保険は、既に払込期間も終わり返戻率も100%を超えていたとしても、保険の形で寝かせておくことによってまだまだ増える効果が期待できるものもあります。
他にも崩して使うことができる預貯金などがある場合にはできるだけお宝保険の契約は残しておくことをおすすめします。銀行の預金利率や今販売されている終身保険の予定利率などと比較してみるとその価値がよくわかるでしょう。
7.まとめ
終身保険の特徴、メリット、デメリットから終身保険が必要なタイプと不要なタイプについて考えてきました。
終身保険は貯蓄や万が一の備えを同時にできるという点が、他の保険商品や銀行の預貯金、iDeCo、投資信託などの金融商品との大きな違いであり、終身保険の最大の魅力とも言うことができますが、貯蓄機能と保障機能を別々に準備するという選択肢もあります。
定期保険とは違い、終身保険は一度加入してしまうと気軽に解約をしたり見直したりすることが難しい商品であるため、メリットやデメリットをよく把握した上でご自身に向いているか向いていないかを判断して加入することが大切です。この記事が保険選びの参考になれば幸いです。